1. 「いつでも戻ってきて」を制度にする
トラブルや人間関係、会社への強い不満などを理由に退職するケースもあります。一方で、優秀な人材が転職、独立、家庭事情などを理由に円満退職することもあります。
そんなとき、
「何かあったら、いつでも戻ってきてくださいね」
と送り出した経験のある会社もあるのではないでしょうか。従来ならリップサービスで終わっていたこの言葉を、実際の採用ルートとして用意するのがアルムナイ採用の一つの考え方です。
マイナビの「2024年1月度 中途採用・転職活動の定点調査」では、アルムナイ採用を実施している企業は40.9%、出戻り転職を経験した正社員は12.3%とされています。また、企業規模が大きくなるほど、アルムナイ採用を実施している割合が高くなる傾向も示されています。
アルムナイ採用には、例えば次のようなメリット・デメリットが考えられます。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 即戦力を期待しやすい | 既存社員との人間関係への配慮が必要 |
| 社内事情を理解している | 不在期間中に組織や業務が変化している |
| 教育コストを抑えやすい | 再採用基準が曖昧になりやすい |
| 社外で得た経験を還元できる | 処遇・役職の決定が難しい場合がある |
| 採用ミスマッチを抑えやすい | 既存社員との公平性への配慮が必要 |
| 退職後のキャリアも含めた選択肢を示せる | ― |
重要なのは、アルムナイ採用を単なる「出戻り歓迎」にせず、こうした問題を想定したうえで制度を設計することです。
2. なぜ総務が関係するのか
アルムナイ採用という名称から、人事・採用部門の仕事だと思うかもしれません。もちろん採用判断そのものは人事や現場部門が中心になります。
しかし、退職者と会社が最後に接点を持つ業務には、総務・労務が関係していることが少なくありません。例えば、
- 退職届の受領
- 貸与物の返却
- 社会保険等の退職手続
- 各種アカウントの終了
- 退職後の書類送付
などです(退職手続きの実務についてはこちらの記事)。
つまり、「退職者との関係を完全に終了する」のか、「将来再び接点を持てる状態にしておく」のかを切り替えるポイントが、退職手続の中にあります。
ここにアルムナイ制度への案内を組み込むことは、一つの方法です。総務が採用するのではありません。退職という業務プロセスに、将来の再接点を作る仕組みを組み込む。ここが総務として考えられる業務改善です。
3. 最初から大規模なアルムナイ制度を作る必要はない
アルムナイ採用にはコストがかかる、という説明も見られます。確かに本格的に実施しようとすれば、専用サービスを導入したり、アルムナイ向けコミュニティを運営したりすることもできます。
しかし、最初からそこまで行う必要があるとは限りません。最低限で始めるなら、
- アルムナイ対象者を管理する台帳
- 本人が希望した連絡先
- 連絡可否等の管理
- 定期的に情報を届ける仕組み
程度からでも始められます。Google Workspaceを利用している企業なら、GoogleスプレッドシートやGoogle Apps Script(GAS)を使って簡易的な仕組みを作ることも技術的には可能です。
一方、
- アルムナイ専用の社内報を作る
- 定期的なニュースレターを作る
- アルムナイ専用採用ページを作る
- ATSに専用選考プロセスを作る
- アルムナイ同士が交流するコミュニティを作る
となれば、当然ながら運用負荷は大きくなります。アルムナイ・ネットワークまで作れば、ある意味では小さなSNSを会社が運営するようなものです。
そこまでの仕組みが自社に必要なのかは、対象者数や採用実績を見ながら判断した方がよいでしょう。場合によっては、システムによる機械的なコミュニケーションよりも、元上司や仲の良かった社員から、
「会社としては、また一緒に働くことも歓迎している」
と自然に伝えてもらう方が効果的かもしれません。
4. 退職時に何をするか
実務上、最初に設計しておきたいのが退職時の処理です。退職後も会社から連絡するのであれば、会社のメールアドレスは使用できなくなるため、本人が希望する連絡先を確認する必要があります。
その際には、取得した連絡先を何の目的で利用するのかを明確にし、必要な同意や個人情報の取扱いを整理しておく必要があります。例えば退職手続の中に、
「退職後も当社から採用情報等をご案内してよいですか」
という確認を組み込む方法が考えられます。希望しない人までアルムナイ制度へ登録する必要はありません。
逆に言えば、退職時にこの確認をしていなければ、数年後に再び連絡しようと思ったとき、そもそも適切な連絡先を持っていないということになります。アルムナイ採用は再採用時から始まるのではなく、退職時から始まっているとも考えられます。
5. 誰をアルムナイの対象にするのか
次に決める必要があるのが対象者です。例えば、
- 本人が希望すれば原則として対象とする
- 一定の条件を満たした退職者を対象とする
- 退職時に所属部門等と確認する
- 再雇用の対象となり得るか一定の基準を設ける
といった方法が考えられます。
ここで注意したいのは、「アルムナイ・ネットワークへの参加」と「再採用」は別の判断にすることです。アルムナイとして会社とつながっているからといって、無条件で再入社できる制度にする必要はありません。
数年経過すれば、
- 本人の能力
- 会社が求める人材
- 組織体制
- ポジション
- 給与水準
なども変化しています。したがって、アルムナイ登録=再雇用保証と誤解されない制度設計が必要です。
6. 再入社時の処遇を先に考えておく
実際にアルムナイ採用が発生したとき、意外に難しいのが処遇です。例えば5年前に退職した社員が戻ってきたとします。その間に社外で大きな経験を積んでいるかもしれません。一方、会社に残った同期は5年間社内でキャリアを積んでいます。
ここで、
- 以前と同じ役職に戻すのか
- 現在の能力で改めて評価するのか
- 以前の勤続年数を考慮するのか
- 給与をどのように決定するのか
といった問題が発生します。人間関係についても同様です。かつての上司が再び上司になる場合もあれば、以前は部下だった社員が上司になっている場合もあります。
そのため、アルムナイ採用を制度化するのであれば、「戻ってきてもらう方法」だけではなく、「戻ってきた後をどう扱うか」まで考えておく必要があります。既存社員に対してもアルムナイ制度の存在を周知し、再入社者の処遇について説明できる状態にしておいた方がよいでしょう。
7. 「外の経験を持ち帰ってほしい」の意味を間違えない
アルムナイ採用では、「他社で得た経験を自社へ還元してほしい」という期待を持つ企業もあるでしょう。これはアルムナイ採用の大きな魅力の一つです。例えば他社で経験した、
- マネジメント手法
- 業務改善の考え方
- 異なる企業文化
- 新しい技術や仕事の進め方
などを自社へ持ち込んでもらうことには意味があります。
一方で、「他社で得た経験」と「他社の秘密情報」は別物です。以前の勤務先の営業秘密、顧客情報、社外秘資料等の持込みを期待したり、求めたりしてはいけません。
アルムナイ採用だからこそ、
「外で得た能力や経験を評価するのであって、他社の情報を持ち帰ってもらう制度ではない」
という線引きも必要です。
まとめ
アルムナイ採用は、最初から大規模なネットワークを構築しなくても始められます。むしろ最初は、
「円満退職した人との関係を完全に切らず、本人が希望すれば再び会社と接点を持てるルートを用意する」
程度から始めてもよいでしょう。
マイナビの「2024年6月度 中途採用・転職活動の定点調査」では、退職した会社の人と現在も連絡を取っている人が57.5%、過去に退職した会社へ戻りたいと思ったことがある人が32.9%と報告されています。
もちろん「戻りたいと思ったことがある」と「実際に戻る」は別です。過去の職場を良く記憶している可能性もありますし、退職原因となった問題が解消されていなければ、再入社しても同じ問題が起こる可能性があります。
それでも、会社側が再入社という選択肢を最初から閉じる必要はありません。そして総務として注目したいのは、アルムナイ採用そのものよりも、
退職という既存業務に、将来の採用につながる小さな仕組みを追加できないか
という点です。退職手続を「社員との関係を終了させる処理」とだけ考えるのではなく、「この人と会社は、退職後にどのような関係になるのか」まで考えてみる。そこからアルムナイ採用を始める方法もあるのではないでしょうか。